文庫版『死体の汁を啜れ』刊行に寄せて

実業之日本社文庫より『死体の汁を啜れ』が2025年4月4日に発売されます。2021年8月に刊行した作品の文庫化ですが、あらためて執筆の背景について少し書いてみたいと思います。ネタバレはありません。

本作は「奇妙な死体」をテーマにした連作短編集です。『豚の顔をした死体』『何もない死体』『血を抜かれた死体』『膨れた死体と萎んだ死体』『折り畳まれた死体』『屋上で溺れた死体』『死体の中の死体』『生きている死体』の八編が収録されています。

自分は普段から頭に浮かんだアイディアを書き留めるようにしているのですが、実際に作品にできる数は限られており、大半のアイディアはメモのまま放置されています。もちろん質が低く使えないものも多いのですが、いつか書きたいけれど機会がない、というものもあり、何とかしたいと思っていました。そしてあるとき、自分がとくに気に入っているアイディアに「奇妙な死体」絡みのものが多いことに気づき、西澤保彦先生の『解体諸因』(バラバラ死体をテーマにした連作短編集)のような、奇妙な死体ばかりが登場する短編集を書いてみたいと思い、そこから「殺人事件の発生率が異常に高い街で次々と奇妙な死体が見つかる」という本作の構想が浮かんだのでした。

また自分はデビュー以降、いわゆる特殊設定ミステリを多く書いてきたのですが、本作を書いた時期は「特殊設定のような飛び道具を使わずとも面白いミステリが結局一番面白いのでは?」という気分に傾いていたところがあり、現実に近い舞台でいろいろなタイプのミステリを書いてみたい、という思いがありました。そこで一話ごとに自由度の高い作劇ができるよう、東川篤哉先生の烏賊川市シリーズや西澤保彦先生のタック&タカチシリーズのように、架空の街を舞台に、登場人物を固定せず、視点を入れ替えながらさまざまな事件を描く、という形式を採用することにしました。

今回、文庫化にあたって全話を読み返してみて、「やけに楽しそうに書いているな」と過去の自分が羨ましくなることが何度もありました。続編を一編だけ書いているのですが(THE FORWARD Vol.6に掲載された『刳り抜かれた死体』)、できれば今後も書き続けたいと思っています。

装画は漫画家の石黒正数先生が描いてくださいました。単行本の不穏な雰囲気もとても気に入っているのですが、文庫ではユーモアミステリーらしい賑やかさのある装丁にしたいとご相談し、四人の主役たち(&作中の細かいアイテムも!)を描いていただきました。

また東川篤哉先生がユーモアたっぷりの解説を寄せてくださいました。お陰で最後の一ページまで、とても愉快で贅沢な一冊になりました。

今回の文庫化を機に本作を手に取っていただいた方も、ぜひ楽しんでいただけましたら嬉しく思います。どうぞよろしくお願いいたします。

(2025/3/31)

shirai tomoyuki

作家。『人間の顔は食べづらい』で2014年にデビュー。 このWebサイトでは刊行情報などを掲載しています。

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