『ぼくは化け物きみは怪物』刊行によせて

2024年8月21日に光文社から短編集『ぼくは化け物きみは怪物』が刊行されます。光文社ではデビュー直後から小説宝石やジャーロで短編を書かせていただいており、本書で三作目の短編集になります。今回のテーマは「怪物」です。

前二作に続き、浅野いにお先生が素敵なカバーイラストを描いてくださいました。

また今回もときわ書房本店さんの店頭やオンラインストアでサイン本をご購入いただくと特典小冊子が付いてきます。

こちらもよろしくお願いいたします。

ここからは収録作品の執筆背景などを軽く書いてみようと思います。核心のネタバレは避けていますが、執筆の動機からトリックや趣向が類推できてしまうかもしれないので、気になる方は本書を読んだ後にご覧いただければと思います。

最初の事件

ジャーロNo.92掲載作です。前述の通り本書は「怪物」を共通のモチーフとしているのですが、テーマから作品の内容を考えることは基本的になく、作品を書いた後で共通点を見つけている、というのが実際のところです。

ただ本編は唯一、「怪物」というモチーフから着想した作品で、このテーマで一冊にまとめるならこういうのも書いておきたいな、と思い筆を執りました。念頭にあったものの一つが藤子・F・不二雄先生の短編で、これをミステリーでやるならどうするか、ただ設定を置き換えるのではなく、より立体的に謎解きに活用するにはどうすればいいか、といったことを考えました。

大きな手の悪魔

光文社文庫のアンソロジー『Jミステリー2023 SPRING』掲載作です。東野圭吾先生を始めとする錚々たるラインナップに加えていただいたこともあり、こんなことは二度とないはずだから良いものにしよう、と気合いを入れて書きました。

アイディア自体は長年温めていたもので、実は他の機会に提案したこともあったのですが、芳しい反応が得られず(冗談を言っていると思われたのかもしれませんが)、ここでようやく書くことができました。ただ以前の筆力や環境では思い通りに書き切れなかった気もするので、このタイミングで書けて良かったとも思っています。

奈々子の中で死んだ男

ジャーロNo.80掲載作です。あるトリックについて考えていたとき、これとそれを組み合わせればひときわ大きなマジックを生み出せるのでは、と思い立ち、そこから物語をつくっていきました。自分の小説にはあまり出てこない「事件の関係者に一人ずつ話を聞きにいく」場面があり、やはり謎解きミステリーはこうじゃなくちゃ、と胸を躍らせながら書きました。

モーティリアンの手首

ジャーロNo.85掲載作です。本格ミステリ作家クラブのアンソロジー『本格王2023』にも収録していただきました。

本編でやりたかったことは二つあります。一つは、一つの死体を巡って複数人が議論をする、という好みのシチュエーションをじっくり描くこと。最近は多重推理を一捻りしたような作品を書くことが多かったため、この作品では今一度、自分の好きなものの原点に立ち戻ったような感覚がありました。もう一つのやりたかったことはどう書いてもネタバレになってしまいそうなので、ここでは控えておきます。

天使と怪物

書き下ろしです。これもネタバレせずに言及するのが難しいのですが、あるタイプの謎解きミステリーを書いていると、その構造が本質的に持っているいかがわしさ(?)のようなものを感じることがあり、それをそのまま謎解きに組み込むことができないか、といったことを考えて書きました。

以上、奥歯に物が挟まったような表現ばかりでよく分からない文章になってしまったかもしれませんが、各作品の執筆の背景を書いてみました。

読者の方にもぜひ、本書の謎解きを楽しんでいただければと祈っています。

※転載などは行わないようお願いいたします。

(2024/8/19)

shirai tomoyuki

作家。『人間の顔は食べづらい』で2014年にデビュー。 このWebサイトでは刊行情報などを掲載しています。

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